日本の頭痛は「我慢の文化」で悪化している
日本における片頭痛の年間有病率は約8.4%、男性3.6%に対して女性は12.9%と報告されています。これは頭痛の診療ガイドラインにも引用されている代表的な数字です。ところが、片頭痛患者の約7割から8割は医療機関を受診していないと言われています。
なぜでしょうか。日本の職場では「頭痛くらいで休むなんて」という空気がまだ根強い。痛み止めを飲んで出社し、パフォーマンスが半分以下に落ちたまま仕事をする。片頭痛によるプレゼンティーイズム(出勤しているものの労働遂行能力が低下した状態)の経済的損失は、年間3,600億円から2兆3,000億円にも上ると推計されています。
さらに日本特有の事情として、気圧の変化があります。梅雨、台風、季節の変わり目。内耳が気圧の低下を察知すると自律神経が乱れ、血管の収縮・拡張が起こって頭痛を誘発します。「天気痛」や「気象病」と呼ばれるこのタイプは、日本ほど気圧変化の大きい国では珍しくない悩みです。
頭痛を引き起こす要因は人それぞれです。ストレスとその解放、睡眠の過不足、月経周期、空腹、脱水、アルコール、特定の食品、光や音、におい。これらが絡み合って発作が起きるため、「我慢していれば治る」ものではありません。
まずは「自分の頭痛のタイプ」を知る
頭痛と一口に言っても、治療法はまったく異なります。大きく分けて次の3タイプがあります。
- 片頭痛:ズキンズキンと脈打つ痛みが数時間から数日続く。吐き気や光・音への過敏を伴うことが多い。女性に多く、月経周期との関連も深い。
- 緊張型頭痛:頭全体がギューッと締め付けられるような痛み。肩こりや目の疲れが引き金になり、40代以降の中高年に多い。
- 群発頭痛:片側の目の奥がえぐられるような激痛が、毎日ほぼ同じ時間に起こる。男性に多く、非常に強い痛みを伴う。
この見極めが重要なのは、薬の選び方が変わってくるからです。軽度から中等度の頭痛にはアセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が効きますが、中等度から重度の片頭痛にはトリプタン系の薬が推奨されます。
市販薬を選ぶときの目安をまとめました。
| 商品名 | 主成分 | 効き始めの目安 | 胃への負担 | 眠気 | 価格帯 |
|---|
| ロキソニンS | ロキソプロフェン | 約15〜30分 | ややあり | なし | 約700円/12錠 |
| イブA錠EX | イブプロフェン | 約30分 | 普通 | なし | 約700円/20錠 |
| バファリンA | アスピリン | 約30分 | ややあり | なし | 約600円/20錠 |
| タイレノールA | アセトアミノフェン | 約30〜60分 | 少ない | なし | 約800円/10錠 |
胃が弱い人はタイレノールAのようなアセトアミノフェン系、とにかく早く効かせたい人はロキソニンS、生理痛も同時にケアしたい人はイブA錠EXが向いています。ただし、カフェイン配合の複合鎮痛薬は眠気や依存に注意が必要です。
ここでひとつ、大きな落とし穴があります。市販薬を飲み続けていると、**薬物乱用頭痛(MOH)**に陥ることがあります。単剤の鎮痛薬は月15日以上、複合鎮痛薬は月10日以上使うと、頭痛の頻度がむしろ増えるという逆転現象が起きるのです。「薬が効かなくなった」と感じたら、それは薬の使いすぎのサインかもしれません。
病院に行くべきタイミングと、その先にある選択肢
市販薬で月に何度もやり過ごしている、頭痛で仕事や家事に支障が出ている、吐き気を伴う頭痛が繰り返す——そんな人は頭痛外来を受診するタイミングです。
受診先としては脳神経内科、脳神経外科が適しています。日本頭痛学会が認定する専門医も全国にいます。初診では頭痛ダイアリー(頭痛の日時、痛みの程度、誘因、服用した薬を記録するもの)を渡されることが多く、これを数週間つけると頭痛のパターンが見えてきます。
治療は急性期の薬に加えて、予防療法という選択肢があります。片頭痛発作が月に2回以上ある、あるいは生活に支障を来す頭痛が月に3日以上ある場合は、予防薬の導入が検討されます。
ここ数年で大きく変わったのが、CGRP関連薬剤の登場です。これは片頭痛の発症に関わるタンパク質の働きを抑える薬で、これまでの予防薬と違って副作用が少なく、効果が高いとされています。ただし、日本神経学会や日本頭痛学会の専門医でなければ処方できません。また2025年には経口の新薬も登場し、治療の選択肢は確実に広がっています。
費用の面では、3割負担の場合の初診料や薬代は診療内容によって幅があります。心配な人は「頭痛外来 費用」で検索して、事前に問い合わせてみると安心です。多くのクリニックでは、保険適用の範囲で治療が行われます。
気圧に負けない毎日の工夫
頭痛の頻度を減らすには、生活習慣の見直しも欠かせません。特に日本で多い「天気痛」タイプは、日頃からのケアでずいぶん変わります。
- 睡眠を一定に:休日だからといって3時間余分に寝ると、かえって頭痛を招きます。平日との差は1時間以内が目安です。
- 食事は抜かない:空腹と脱水は片頭痛の代表的な誘因です。特に朝食を抜く習慣がある人は要注意。
- 首と肩をほぐす:緊張型頭痛の多くは筋肉のこりから来ます。入浴や軽いストレッチを習慣に。
- 気圧の変化を先読み:天気予報アプリで気圧の低下がわかるものもあります。「明日は雨が降るな」とわかっていれば、無理な予定を入れずに済みます。
- 頭痛ダイアリーをつける:痛む時間、強さ、その日の天気、食べたもの。これを1カ月続けると、自分だけの誘因リストができます。
漢方薬も選択肢のひとつです。冷えやすい体質の片頭痛には呉茱萸湯、むくみやすい人の頭痛や天気頭痛には五苓散、緊張型頭痛には葛根湯や釣藤散が用いられることがあります。市販の漢方薬もありますが、自分の体質に合うかどうかは専門家の判断を仰ぐのが安全です。
頭痛を「仕方ない」と諦めないで
私はこれまで、頭痛に悩む多くの人を見てきました。共通しているのは、「頭痛は我慢するもの」と思い込んでいることです。片頭痛の患者さんの約7割が医療機関を受診していない現状は、その思い込みの表れでもあります。
頭痛は、適切な診断と治療で確実にコントロールできる神経疾患です。薬の使い方ひとつとっても、市販薬を漫然と飲み続けるのと、専門医の指導のもとで急性期治療と予防療法を組み合わせるのとでは、生活の質がまったく変わってきます。
「最近、頭痛が増えたな」と感じたら、まずは市販薬の使用頻度を振り返ってみてください。それでも月に数回、痛み止めが手放せないようなら、お近くの頭痛外来を訪ねてみましょう。地域名と「頭痛外来」で検索すれば、専門のクリニックが見つかります。
頭痛が治まれば、見える景色も変わります。朝の光がまぶしくない。雨の日の予定を気軽に立てられる。仕事に集中できる。そんな当たり前の毎日が、実は一番の贅沢なのかもしれません。