日本人に多い頭痛の正体
日本のオフィスワーカーを取り巻く環境は、頭痛の発生に拍車をかけている。長時間のデスクワークによる首や肩のこり、スマートフォンの画面をのぞき込む前傾姿勢、そして梅雨から台風シーズンにかけての気圧の乱高下。加えて、睡眠不足やストレスが重なれば、頭痛の頻度は確実に増える。
頭痛は大きく分けて、検査しても原因となる病気が見つからない「一次性頭痛」と、脳出血や脳腫瘍などが原因で起こる「二次性頭痛」に分類される。一次性頭痛の代表格が片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛の3つだ。
片頭痛は、こめかみや目の奥がズキズキと脈打つように痛み、吐き気や光・音への過敏を伴う。体を動かすと痛みが強まるのも特徴だ。一方の緊張型頭痛は、頭全体をベルトで締め付けられるような鈍い痛みで、肩こりとセットで現れることが多い。群発頭痛は目の奥をえぐられるような激痛が数週間から数ヶ月にわたって毎日起こるもので、男性に多い。
ここで注意したいのは、市販薬の使いすぎだ。痛み止めを月に10日以上使うと、今度はその薬自体が頭痛を引き起こす「薬物乱用頭痛(MOH)」に陥るリスクがある。単剤の市販薬なら月15日まで、複合鎮痛薬なら月10日までが目安とされる。「痛いから薬を飲む」を繰り返しているうちに、薬がないと痛くなる悪循環に気づいたときには、すでに専門医の介入が必要な状態になっていることも珍しくない。
自分に合う市販薬の選び方
頭痛のタイプが分かれば、市販薬の選び方も変わってくる。日本で手に入る主な鎮痛薬を比較してみよう。
| 商品名 | 主成分 | 効果の発現 | 胃への負担 | 眠気 | 価格帯の目安 |
|---|
| ロキソニンS | ロキソプロフェン | 約15分〜 | ややあり | なし | 約700円/12錠 |
| イブA錠EX | イブプロフェン | 約30分 | 普通 | なし | 約700円/20錠 |
| バファリンA | アスピリン | 約30分 | ややあり | なし | 約600円/20錠 |
| タイレノールA | アセトアミノフェン | 約30〜60分 | 少ない | なし | 約800円/10錠 |
| イブクイック頭痛薬DX | イブプロフェン+酸化Mg+カフェイン | 約15分〜 | 普通 | なし | 約900円/20錠 |
素早く痛みを抑えたいならロキソニンSやイブクイック頭痛薬DXが選択肢に入る。胃が弱い人は、NSAIDsではなくアセトアミノフェンが主成分のタイレノールAが負担が少ない。仕事中や運転前でも使いやすいのは、鎮静成分を含まないロキソニンSやタイレノールAだ。
漢方薬を選ぶ人もいる。冷えやすい体質で吐き気を伴う片頭痛には呉茱萸湯、むくみやすい人の天気頭痛には五苓散が用いられることがある。ただし、どの薬にも合う合わないがある。市販薬で対処する場合も、用法・用量を守り、複数の痛み止めを同時に飲むのは避けたい。
気圧の変化に悩む人のためのセルフケア
日本で特に多いのが、天気や気圧の変化で起こる頭痛だ。「雨の日は頭が重い」「台風が近づくとズキズキする」といった症状は、気象病や天気痛として医学的にも認知されている。国内で同じような症状に悩む人は1000万人以上いるとの報告もある。
気圧が下がると、内耳の気圧センサーの役割を果たす部分が刺激を受け、自律神経が乱れる。すると血管が拡張して片頭痛が誘発されたり、首や肩の筋肉が緊張して痛みにつながったりする。急激な気圧の低下だけでなく、急な上昇でも頭痛が起こることがある点は覚えておきたい。
対策としては、天気予報アプリで気圧の変化を事前にチェックし、下がり始める前に首や肩を温めておく方法がある。片頭痛のときは頭部を冷やすのが有効で、保冷剤をタオルで包んでこめかみや目の周りを冷やすと痛みが和らぎやすい。逆に、首や肩の筋肉を冷やしすぎると緊張が強まるので注意が必要だ。暗い部屋で横になり、光や音を遮断するのも古典的だが確実な方法だ。
頭痛外来で受けられる新しい治療
市販薬でどうにもならない頭痛、月に2回以上も発作があるようなら、頭痛外来や脳神経内科の受診を検討すべきだ。日本頭痛学会の診療ガイドラインに沿った標準治療を受けることで、多くの慢性頭痛は改善が期待できる。
受診すると、まず問診で頭痛のタイプを診断される。片頭痛と診断されれば、発作時の治療としてトリプタン系薬剤が処方されることが多い。トリプタンは片頭痛の痛みの原因となる物質の働きを抑える薬で、市販薬が効かない人でも効果を実感できるケースが多い。
さらに近年注目されているのが、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)に関わる治療薬だ。CGRPは片頭痛の発作を引き起こす物質として知られており、これを標的にした薬が続々と登場している。2025年12月には、発作時の治療と予防の両方に使える経口CGRP受容体拮抗薬「ナルティークOD錠(リメゲパント)」が国内で発売された。これまでCGRPを抑える薬は注射薬のみだったため、飲み薬で両方に対応できるのは画期的だ。血管を収縮させる作用がないため、心臓や血管への負担が少ないのも特徴で、トリプタンを使いにくい人にも選択肢が広がった。
予防療法としては、毎日服用する薬や、数ヶ月に一度の注射タイプの薬もある。発作を起こりにくくすることで、仕事や家事の予定を頭痛に左右されずに過ごせるようになる。東京や大阪など都市部には頭痛専門のクリニックが増えており、オンライン診療に対応している施設もある。初診の費用は保険適用となるため、一般的なクリニックの診察と大きな差はない。費用面での心配があれば、受診前に電話で確認しておくと安心だ。
日常生活でできる頭痛予防の習慣
頭痛を減らすには、薬に頼るだけでなく生活習慣の見直しが欠かせない。
まず姿勢だ。デスクワーク中は背筋を伸ばし、顎を引くことを意識する。パソコンの画面は目線より少し下に置き、1時間ごとに立ち上がって軽く体を動かす。スマホを操作するときは、うつむきすぎず、目線の高さに近づけて使いたい。
睡眠も重要だ。6〜7時間の睡眠を毎日同じ時間にとるよう心がけ、就寝前のカフェイン摂取やスマホ操作は避ける。休日に寝だめをすると、かえって頭痛を招くこともある。
女性の場合は、生理前後のホルモンバランスの変化で片頭痛が悪化しやすい。周期と頭痛の関係を記録しておけば、医師に相談する際の手がかりになる。市販の頭痛ダイアリーアプリを活用するのも手だ。
そして、ストレスとの付き合い方だ。趣味の時間を確保し、意識的にリフレッシュする。ウォーキングやヨガなどの軽い運動は、血流を促し緊張型頭痛の予防に役立つ。
頭痛と上手につきあうために
「頭痛くらい」と軽く考えず、自分の頭痛のタイプを知ることが、つらい症状から抜け出す最短ルートになる。市販薬の効果が弱くなってきた、薬を飲む回数が増えた、頭痛のために予定をキャンセルすることが増えた——そんなサインを見逃さないでほしい。
片頭痛による休業やパフォーマンス低下の経済損失は、国内で年間3600億円から2兆3000億円にのぼるとの推計もある。これは決して個人の我慢で解決すべき問題ではなく、適切な治療で改善できる健康課題なのだ。
まずは気圧の変化を記録し、頭痛の頻度と症状を書き出してみる。そして迷ったら、地域の頭痛外来や脳神経内科の門をたたいてほしい。日本頭痛学会の認定する頭痛専門医が在籍する施設は全国にあり、かかりつけ医に紹介状を書いてもらうこともできる。あなたの頭痛は、きっと改善できる。